[小説]ユメノツバサ – The Double Actor -(終)

小説/本文

そして…翌年の春。

「ほら、初南賛!早く早く!行こうよ☆」
「ちょ、ちょっとゆたか!早くって言ったって…ほんとに今日行っていいの?」
「だって、もうガッコも春休み入っちゃったしさ☆ ヒマなんだよ☆
それにおじさんも、いつ来てもいいって言ってたし☆」

「うう……そ、それと僕のことは名前で呼ばないでっていつも言ってるでしょ!」
「あはは☆ 初南賛いつもそう言うよね☆ カッコいい名前なんだからいいじゃん☆
オレだったらみんなに自慢しちゃうな☆」

お互い、無事に会社から内定をもらって数ヶ月。
突然、学校が休みだからと会社見学に行こうと言い出したゆたかに、今日も振り回される初南賛。
内定をもらった後、ゆたかは北海道から、姉の住む都内のマンションへと戻り、高校も転校した。
初南賛は高校卒業後に母の元を離れ、社員寮で一人暮らしすることを決めた。

会社に向かう足をいったん止め、初南賛はゆたかに問いかけた。

「……ねえ、ゆたか。本当にこれでよかったの?役者になるの、諦めたわけじゃないんでしょ?」
「もちろん☆諦めてないよっ☆ でも、しばらくは充電期間というか修行期間というか、
そういうのを置いて、この会社で色々勉強するかな☆
人生長いし、オレまだ18だもん☆時間は掛かるかもだけど、絶対復活してみせるから!
それにね…………」

「?」
「あの会社、色々手広くやってて、アイドルをプロデュースする予定もあるんだって!
もしその時が来たら、オレも初南賛も一緒に再☆デビューしちゃおうっ☆」

ゆたかの壮大な(?)計画に、さりげなく自分も巻き込まれていることに、初南賛は顔を青くする。
「ちょ………ちょっと!? 何で僕までデビューしなきゃいけないの!?」
「それはオレが決めたからさっ☆☆」
「それ、無いから!」

役者になる夢の片翼を、もがれてしまった少年と、自らもいだ少年。
また空を飛ぶのは困難かもしれないが、二人の翼を合わせれば、どこまでも行ける気がする。
お互いふざけた口、憎まれ口を叩きながらも。
明るい未来を夢見ずにはいられない、新たな生活の第一歩であった。

END

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