(11話の続き。夜半の水着の見つかった洞窟にて、ひとり佇むレイン)
レイン:………来たか。
奈津恵:お久しぶりです。イングリッド・レインウォーターさん。
「あの時」は名乗る間もなかったですけど、改めまして。私は瀬上奈津恵と申します。
…レインさん、とお呼びしても?
レイン:構わん。
氷雨:(初対面じゃないんですね……このお二方……)
奈津恵:事情は大方、こちらの朝霧氷雨さんにお聞きしました。
「うちの白鳥」が何やらご迷惑をおかけしたようで。
レイン:………
奈津恵:彼の復活には貴方と、私の力が必要だと聞きました。どうして私なんです?
レイン:………どうしても何も、
奈津恵:私が彼と契約した「眷属」だと思っているのでしたら、それは間違いですわね。
レイン:何?
奈津恵:確かに、私は大学時代、同じ大学にいた彼と契約を結んでいた時期がありました。
しかしそれは大学を卒業して彼と離れる際に「破棄」しています。
レイン:……ふん、成程な。そう言いくるめておったか。あの男の考えそうなことだ。
奈津恵:………
レイン:吸血鬼と人間は、契約することもできれば、もちろん破棄することもできる。
ただし、真祖の血は濃く影響力も他の吸血鬼の比ではない。
契約した人間の体内に流し込まれた真祖の血を完全に抜き切るのは不可能に近い。
…貴様の体内に、奴の血が僅かながらに残っているはずだ。
奈津恵:……なんとなく、そんな気はしていましたけど。
血がどうであれ、私と彼の間で契約は終わったことになっていますので。
レイン:そんなことを言っていいのか?「元」主人であるアレクは今、灰となって海に流されバラバラになった状態。それを一瞬にして一所に集め、肉体を復活させるには、私の力と、お前の持つ奴の血が必要だ。
お前の協力がないのであれば、奴に再会するのは何十年と先となるであろうな。
奈津恵:そうですか。私は別にそれでも構いませんけどね。
レイン:なんだと?奴がいなくなったら困るのではないか?
奈津恵:別に、と言ったでしょう。何十年とかかっても、生き返るのであればそれでいいのではないですか?
レイン:貴様……。
奈津恵:……彼が……
彼がいなくても、私一人でも生きていけるようにしたのは、彼の方ですから。
むしろ、彼が今すぐ復活しないと困るのは、レインさん、貴方の方なのでは?
レイン:何だと?
奈津恵:貴方が、古屋くんの命を使ってまで彼の吸血鬼の本性を思い出させようとするくらいには、彼に執着しているのは存じてます。そして、私に襲い掛かって彼を奮い立たせようとしたことも。
結構、必死ですよね?
レイン:……貴様、誰に向かってものを言っている?
奈津恵:吸血鬼の真祖であるイングリッド・レインウォーターさんに、ですよ。
…一応お尋ねしますけど、貴方の姿を覆うその黒いローブ、宗教的な理由か何かで着用を?
レイン:そんなことを訊いてどうする。これは私の独断の正装だ。
奈津恵:あらそう。なら言わせて頂きますけどもね。
……人の目を見て話さない相手に、敬意なんて払う気には、これっぽっちもならないのよ。
レイン:………この………女ッ……(徐々に怒りに震える)
奈津恵:私にお願い事するのであれば、ローブを脱いで、目を見てしてもらえるかしら?
レイン:………ッッッ………ふざけるなっ!!!! 下等な人間の分際でっ!!!!!
(突如、剣を抜いて奈津恵に襲い掛かる)
奈津恵:……ッ!(こちらも一瞬にしてハリセンを取り出して応戦する)
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氷雨・司:(二人の殺気立ったオーラが凄すぎて、ひとっ言も割り込めなかったァァァァ~~~……;)
氷雨:って、引いてる場合じゃないっ、お二人とも、ケンカするのはやめてくださーいっっ!!
司:そーだぞレイレーイっ!レイレイ強いんだからうっかり瀬上部長殺しちまったらヤバいだろーっ!?
(しばらく剣を交え続けるレインと奈津恵)
レイン:(……そう、司の言う通り、私がこの女を殺すのは容易いことなのだ……だが……
先ほどから急所を外して斬りつけようにも、この女の周りにごく薄く、なおかつ強固な魔導結界が張られている…
………アレクの仕業か)
奈津恵:(さすが吸血鬼の真祖というべきか…白鳥君の張っておいてくれた結界がなかったら今頃傷だらけだわね…
いい加減観念してくれないかしら…)
レイン:………フンッ(剣をしまう)
奴が認めて横に置いていた女だけのことはある。その度胸に免じて素顔を見せてやらんでもない。
奈津恵:お願いする側のくせに上から目線なのは変わらないのね。
レイン:このっ……崇高なる吸血鬼の真祖に向かって何を……!!
奈津恵:ハイハイ真祖様。
レイン:はぁ……(諦めてため息をつきつつローブを脱ぐ)
司:……おれレイレイの顔見るの初めてじゃないけどさー、やっぱ思うんよね。
レイレイけっこーカワイイからそんな布かぶるの止めね?
レイン:……司、今すぐ消えてなくなれ。
司:(;≧▽≦)えぇッ褒めてるのに!?
レイン:ここに魔法陣を描く。その中心に奈津恵、お前がここに立て。
奈津恵:(お願いしますって言われてないんだけどローブを脱ぐだけでやることになってるわね…まあいいけど)
レイン:何か言いたげだな?
奈津恵:言って差し上げましょうか?
司:おれ、レイレイは口では瀬上部長に勝てない気がするからやめといたほうがいいと思うぜ。
レイン:……………(もう否定しない)
お前の身体を通して魔力を放ち、散らばったアレクの灰を引き寄せ、ひとつの塊にする。
一所に集まってしまえば、あとは奴の元々持つ魔力により一瞬にして肉体は再生されるはずだ。
奈津恵:………わかったわ。
レイン:お前は、心の中で強く奴に呼びかけるのだ。では、始めるぞ。
(奈津恵の足元の魔法陣が輝き始める)
奈津恵:(……白鳥君を強く思い浮かべて……彼が復活するとして、その後は……)
レイン:……ああ、ひとつ言い忘れていたが、
奴の肉体は即座に再生されるであろう。だが、再生された直後は限りなくゼロに近い空腹状態で、正気ではないはず。
もちろん一番近くにいる獲物であるお前が喰われることになる。飢餓状態の吸血鬼の恐ろしさを身をもって知れ。せいぜい喰いつくされないようにな………ククク………
氷雨:えっ……そんな、じゃあ、
真祖が復活したら瀬上部長が喰い殺されちゃう…っ!?
奈津恵:(そんなことだろうと思った。上等。受けて立とうじゃない……!!!)