(大空と別れた後、大島家へ)
梧:え?お父さん……雅人叔父さんと会った記憶がないって?
(※継人の父のフルネーム:仙波雅人)
継人:うん…そういえば最近会ってないよなーって気づいて。
正直、顔も覚えていないレベルでな。梧は最近うちの親父に会ったか?
梧:継人が会ってないのに僕が会ってるわけないじゃない。
でも、頻繁に連絡は取ってるんでしょ?
継人:まぁ……LINEはしょっちゅう来るけど……どうでもいい内容のが。
こっちから送れば大体即レスか、遅くとも1時間以内くらいには返事がある。でも…
梧:でも?
継人:顔を見た記憶がない。インスタも頻繁に更新してるけど自撮りなんかはないし。
ちょくちょく家には帰ってきてるみてーだけど、いつもオレが居ないか寝てるかの間だし、
本気で顔思い出せねーんだよ。
梧:うーん、たまたまじゃないの?
継人:たまたま…かもしれないけど、そんな生活がなんだかんだで10年以上続いてることに、
今さらながら気づいてさ。別にそれで生活に支障があるわけじゃないけど、
特に理由もないのに親の顔を知らないってもしかして異常なんじゃねーかな…って
梧:あはは。まあそうだよね。ぶっちゃけ言っちゃえば
家庭の稼ぎ頭の父親は、お金さえ入れてくれれば子どもに顔見せなくたって不自由はしないもんね。まあそれで家族の仲がどうなるかは、別問題として。
継人:……くそっ、なんでこんな単純なことに、アホの青木に言われるまで気づかなかったんだ、オレ。
梧:青木くん家は親子仲いいらしいからね~、橘兄さんから聞いてるけど。
ま、そんなにお父さんの顔が気になるなら、手っ取り早くアルバムでも見てみたら?
うちには継人の家族も一緒に写ってる写真、いっぱいあるし。持ってきてみようか。
継人:そうか、アルバム……その手があったか。
(梧がアルバムをどっさり持ってくる)
梧:これは……うちの両親の結婚式の写真だね。この頃、華耶子叔母さん(継人の母。梧の母の妹にあたる)はまだ独身だったのかな。叔父さんは写ってないね。
継人:華絵伯母さんは確か10代で結婚したんだろ。だとしたらうちの母親はまだ高校生とかじゃねーのか。
梧:そっか。ちょっと昔過ぎたな。えーとじゃあもうちょい先の……(ページをめくる)
あ、これ。僕と継人じゃないかな。母や叔母さんも写ってる。
継人:親父は写ってないな…。
梧:そういえば継人の両親は結婚式してないんだっけ?
継人:ああ、うちの両親はそういう派手なことあんまり好きじゃねぇみたいで。
結婚写真すら撮らなかったとか言ってたな。
梧:そっかぁ。うーん後は……旅行の写真とか、夏休みの他愛ない日常の写真とか…(次々とページをめくる)
継人:これでもかってくらい、写ってねぇな……うちの母親と、そっちの親はちょいちょい写ってるのに……
梧:両家総出で行った旅行の集合写真にすら写ってないね。
継人:(次から次へとアルバムをひっくり返す)これも!コレも!! 全っっっ然写ってねえ!!! なんなんだ!!!!
梧:叔父さん、もしかして写真嫌いなのかな?
合同の家族旅行には大体着いてきていたと思う……んだけど。たぶん…(←もう自信なくなってきてる)
もう面倒くさいから、LINEして、自撮り送ってって言えばいいんじゃない。
継人:そ、そうだな……なんか改めてそう頼むのも気恥ずかしいけど、気になって仕方ねぇからそうするわ。
父さん、ちょっといいか?
やあ、継人からメッセージくれるなんて珍しいね
気づいたんだが、俺もう何年も父さんの顔を見てないんだよな。ぶっちゃけもうどんな顔してたかも覚えてないほど。
だから、自撮りでもなんでもいいから、父さんの写真送ってくれないか?
……………
(既読はついたが無言のまま1時間経過)
継人:なんなんだよ……最初は秒でレスしたくせに写真要求したとたん既読スルーか!?
梧:まあまあ、もしかしたらお仕事中かもしれないし…。
継人:だって今23時だぞ!?
梧:もしかしたら海外にいるのかもしれないし。というか、いま叔父さんどこにいるの?
継人:知らん!!! 仕事でどっかにいるとしか…
ピロン♪
ごめんな継人!せっかくだから一番上手く撮れたのを送ろうと思って、時間がかかっちゃったよ。今送るよ。どうかな?
継人:自撮り下手くそかよ!!!!(スマホぶん投げる)
梧:………一番……上手く………????
継人:ったくもう……あのアホ親父が……!!!
あのさ、せめて何が写ってるのか分かるレベルのものにしてくれ。
えぇっ!? 父さんだよ!? ちゃんと頭と目と口が写ってるじゃないか!
そんなのは普通の人間なら誰にでもついてる。
できれば父さんだと判断つく写真にしてくれ。もう、昔のとかでもいいから。
昔・・・昔かあ。うーん。あったかなぁ
おっ、あったあった。これは貴重だぞ。
ちょっと恥ずかしいけど継人になら見せてやろう。
2列目の右から4番目が僕だよ。恥ずかしいなあ
昔過ぎんだろいい加減にしろ
あと小さすぎて見えねえ
継人:昔過ぎんだろいい加減にしろ!!!!!(スマホを床に叩きつける)
梧:ああ~、継人落ち着いて…カーペットじゃなかったらスマホ壊れてるよ。
継人:そも会話すら久しぶり過ぎて親父の性格がよくわかんなくなってきたぜ…こんなすっとぼけた奴だったか?
おっと、こんな時間に来客か。またな、継人。
継人:チッ……ここまでか。この様子だと何回訊いても誤魔化されそうだな。
実際に会った方が早そうだな…。