(そのころ社員寮「わけぎ」では…)
紅葉:(はぁ……面倒くせぇ。
なんで旅行不参加組が寮の留守預からなきゃいけないわけ?
別に用事があって旅行参加できなかったとか思わないわけ?クソが…)
ええっと、ここからここまで水撒いておけばいいですか?
梧:はい、植え込みと花壇と、庭先にも軽く。お願いしますね。えーと…
紅葉:宮川です。
梧:ああ、そうだ宮川くん。
……そういえば、まともに会うのも話すのも初めてだったね。
僕は大島 梧です。社内に同姓が何人かいるんで、名前で覚えてくれるとありがたいかな。
紅葉:はあ。
梧:旅行に参加しなかったのは、僕と、君と、あと……
紅葉:なんかあの背デカい金髪の、最近入った人。さっきどっか買い出し行きましたよ。
梧:3人か。……そういえば、宮川くんは何故旅行に行かなかったの?
紅葉:身内に新盆があったんですよ。
……梧サンは、なんで参加しなかったんですか?
梧:うちは、ちょっとした旧家でね。お盆は必ず親族で集まるようにと言われてるから。
紅葉・梧:………………
(注:今は盆休み中である)
梧:お互い、「じゃあなんでお盆の今、ここにいるんだ」って顔してるね、ふふっ
紅葉:………別に、新盆なのはウソじゃないですよ。
っつーか、どうせウチは毎年新盆だし……
(ほぼ毎年最低一人は組同士の抗争とかで組織内の人間が死んだりしてるし)
梧:毎年!? ……家族が多いんだね、大変だね。
紅葉:別に。行っても面倒くさいだけだし。香典だけ送ってフケりましたよ。
梧:そういうものなのか~(紅葉の実家がヤクザであることは知らない)。
僕も、似たような理由かな。どうせ僕が居ようと居まいと関係ないし。
旧家って言っても三男坊だしね。特に用事もないから、「面倒くさい」。
紅葉:じゃあ、普通に旅行行けばよかったんじゃないですか?
梧:………観光地に、海水浴でしょ。人の多いところって、好きじゃなくてね。
(リゾート地で浮かれた脳内お花畑連中の溜まる場所なんて、特にね)
君こそ、実家に帰る気がなかったんなら…
紅葉:別に。そっちはそっちで面倒くさそうだし。
梧:ふ~ん………(目を開く)
紅葉:? なんですか、人の顔じっと見て……
梧:……面白いね、君。それなりの修羅場をいくつも乗り越えて来てるっぽいのに、それらを全て心の傷にも黒歴史にもせずに受け入れてる。
身内以外で、僕の瞳を見てなんともない人に久しぶりに会ったな。
紅葉:??? 何言ってんですか?気持ち悪い。
梧:ははは、ほんと、正直な物言いだね。見習いたいくらいかな。
紅葉:変な人…。
まぁ……よくわかんないですけど、僕と似たような理由で旅行行かなかったんだな、ってのはわかりました。
オサム:は~~~~~~~くそあちぃ!!!
花壇の柵が折れてたから材料色々買ってきたけど…暑い!!!!
梧:あぁ、おかえりなさい。えーっと…
オサム:あ、ハイ!新人の本城オサムでっす!B棟に今のところ一人で住んでまっす!
紅葉:……どうも。(見るからに陽キャ…)
梧:本城…さんは、どうして旅行に参加しなかったんですか?
オサム:あーオレ忙しくって!! 気づいたら申し込み期間終わってて!
っつーか旅行あるって知ったのおとといくらいだし!!
梧:ははは……(何か特殊な理由があるかと思ったら、参加しそびれた陽キャだったか…)
オサム:なんか暗いなーお前ら!ホレ!兄ちゃんがアイス買ってきてやったぞー!! ちょっと休憩しようぜ!
紅葉:………あ、白くまアイス(←好き)
梧:色々入って………ザクロアイス!?
オサム:あーなんか輸入モンの変わったアイスとかもぶっ込んでみたよ!好きなの食ってくれ!
梧:僕、ザクロ好きなんですよね…。
紅葉:えー、僕あのイクラみたいな見た目が無理。
梧:生は食べたことないんだけどね。
オサム:ないのかよw
紅葉:ま、美味しけりゃなんでもいいんじゃないですか。僕だって牛乳嫌いだけど白くまアイス好きだし。
オサム:そーそー、細かいことは気にしない!!(何やら開封して食べ始める)
梧:本城さんの食べてるそれは?
オサム:明太子アイス!!!!
紅葉・梧:うわぁ……
オサム:うわぁっていうけど意外にウマいんだぞ!
紅葉:もう片手に持ってキープしてるのは…「蟹アイス」…?やべぇな、この人。
オサム:ウマいんだってば!!!
梧:は~ぁ、でもこうやって家でのんびりだらだらしてる方が、やっぱり僕は好きですね。
旅行行った人たちは、楽しんでるのかな。
紅葉:まあ、この会社の人たちだし。無事に済む気はしないですけどね。
オサム:ま~たまたあ~。そんなコワイこと言って~!
オレが「参加しなくてよかったー!!!!」って思えるようなことが起きませんように、なんてオレは思わないけどねー!!!
紅葉・梧:(この人も大概だな……)